桜が満開である。
ここに越してきた当初は家の目の前に1本、桜の木があったんだけど、マンションを建設するために切られてしまった。
でも町内にはものすごく立派な桜の木があって家の中から全体を見ることができる。
そして観光地らしく近所にはそこかしこに立派な桜が植わっているので、毎日犬の散歩をしているだけで毎年たっぷりとお花見が出来る。
なので敢えて外でシートを敷いてお花見、というのはあまりしなくなった。
今の時期だけ、普段は普通の樹?みたいな顔をしている桜が急に大きな薄ピンク色の華やかな物体に変身するのは何度みても面白い。

先日、須磨にあるとても趣味の良い個人商店の本屋さんのSNS(犬のアカウントで何となく繋がっているのだ)で、とある本の紹介があり興味をそそられたので犬の散歩のついでに立ち寄って購入した。
神戸ではこのお店しかまだ取り扱いが無いらしい。
店主さんはうちの犬のファンなのでお店の中に犬を入れても喜んでくれて有難い。
「雨犬 A RAIN DOG」 版画:柳本史 文:外間隆史
最初に老犬とペンキ職人の少年という物語に興味をそそられたんだけど、
外間さんという名前を聞いたことがあるなってふっと気づいた。
中学生ぐらいの頃に遊佐未森さんの「空耳の丘」というアルバムを(限定盤ブックレット付を買った)それは毎日毎日聴いていたんだけど、そのアルバムの楽曲を創ったりブックレットに短編文章を書いたりしていた方ですね。
あの美しい楽曲と世界観にはものすごく影響を受けました。
それから数十年の時を経てまた出会うとは。

捨てられていた老犬をペンキ職人の少年が見つけ、静かに一緒に暮らすその風景を犬の目線から描かれている、詩のような歌のような物語。
ペンキ職人は友達もいなくて1人で暮らしているけれど、孤独感は無い。
「1軒でも多くの家を塗り、好きなレコードを買い、気に入った詩を読むことが彼の望んでいること」
そして犬は街で匂いを探し「記憶を集めること」で毎日を過ごしている。
部屋でペンキ塗りはコーヒーを淹れ、ニールヤングやシューベルトをかけ、詩を読む。時には書き物をする。(小説なのか、詩なのか)
傍らで犬は一緒にレコードを聴いたり、ペンキ職人が詩を朗読するのを聴きながらまどろむ。
老犬が主人公であるが故に、いつか訪れるであろう別れの予感の空気が常に漂い、切ない。
こんな静かで美しい暮らしをしていたいと思うけれど、現実は色んなノイズが入ってきてそうはいかないよね。
でも、だからこそ、この物語の美しさが心に刺さるのかもしれない。
日常生活のような顔をした非日常の物語。現実の顔をしたファンタジー。
物語の言葉たちから世界の美しさをもう一度見つめ直せる事もあるけれど、
それでもなお、混沌として全く綺麗じゃない自分や世界や周りに疲れたら。
ページをひらけばまた、この美しく静かな暮らしの中に戻れる。
それにしても犬が出てくる物語っていつも綺麗でもの悲しいなあ。
言葉も絵も装丁も、そして文章のレイアウトも、とても素敵な美しい本でした。
何度も読み返したい。